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広島高等裁判所岡山支部 昭和40年(ネ)84号 判決

控訴人・附帯被控訴人

有限会社高橋自動車整備工場

代理人

小野敬直

被控訴人・附帯控訴人

高橋昌

代理人

佐藤重政

主文

本件控訴、附帯控訴および附帯控訴に基き原判決添付別紙二記載の取締役会決議の取消を求める附帯控訴人の請求を棄却する。

控訴費用は控訴および附帯控訴を通じこれを二分してその一を控訴人の、爾余を附帯控訴人の負担とする。

事実

一当事者双方の求めた裁判

控訴人(附帯被控訴人)は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人)は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決および附帯控訴に基き「第一次的請求として、原判決をつぎのとおり変更する。控訴人の原判決添付別紙一記載の昭和三九年三月一三日午後八時の臨時社員総会決議、同じく別紙二記載の同日午後九時の取締役会決議および同じく別紙三記載の同月二三日午前一〇時の臨時社員総会決議がいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、「第二次的請求として、原判決をつぎのとおり変更する。右各決議を取消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二当事者双方の主張、証拠の提出・援用・認否〈省略〉

理由

一原判決添付別紙一の決議無効確認請求について。

(一)  有限会社社員総会決議の内容が法令又は定款に違反する場合にはその決議は無効であり、有限会社法四一条、商法二五二条に基きその無効確認の訴を提起しうるものであるが、被控訴人が右決議の無効原因として主張するところは、当該社員総会における決議権の数の算定に誤りがあり右決議は定款所定の定足数を欠くものであるというにある。しかしこのような瑕疵は決議の成立手続に関するものであるにすぎず、これをもつて決議無効の理由とすることはできないので、右決議の無効確認を求める被控訴人の請求は失当である。

(二)  被控訴人の右請求が、予備的に右決議取消の請求を含むものであることについて。有限会社法四一条が準用する商法二四七条は決議の成立手続に関する瑕疵を原因とする決議取消の訴を認め、同じく同法二五二条は決議の内容が法令又は定款に違反することを原因とする決議無効確認訴訟を認め、その間に原告適格、出訴期間等の手続において若干の差異を設けているものの、もともと総会決議は、その招集手続又は決議方法が法令又は定款に違反するにすぎないときにおいても当然無効のものというべきであるが、時の経過を問わず無条件に何びとにおいてもその無効を主張しうるものとすれば、その決議を前提とする会社の取引関係は錯雑を来たし関係当事者の利害に重大な影響を及ぼすこととなるし、右のような決議成立過程における手続的瑕疵はその重要性が比較的少いところから、法は、会社関係における法的安定の要請を考慮して、これを決議取消原因とし、出訴期間、原告適格等に制限を設けたものである。このように総会決議の無効と言い或いは取消と言い、それはいずれも決議に存する瑕疵を原因としてその効力を否定しようとするものであり、その間の差異は瑕疵の軽重などを考慮して法政策上設けられたものにすぎないと解するので、当事者が総会決議に存する或る瑕疵を捉えてこれを決議無効原因としてその無効確認を求めている場合、右瑕疵が決議無効原因には当らないが、取消原因に当りしかも取消訴訟の原告適格、出訴期間の遵守等を充しているときは、無効確認請求は予備的に取消請求を含むものと解するのを相当とする。

(三)  そこで右決議取消原因の存否について判断する。

被控訴人及び柴田治が控訴人の社員であり、被控訴人が一四二口、柴田が六八口の各出資者であつたことは当事者間に争いがないところ、控訴人は柴田が被控訴人からその持分のうち一一〇口の譲渡をうけたと主張する。〈証拠〉及び弁論の全趣旨によればつぎの事実を認めることができる。

被控訴人は、大正末期ごらから自動車整備業を営んでいたが、娘の夫であつた柴田治に右事業を譲るべく、昭和二九年一一月九日控訴会社を設立し、柴田が代表取締役に、被控訴人が取締役にそれぞれ就任した。被控訴人はその後柴田との間が不和となり、控訴会社の運営につき自己の友人五名を社員に迎えてその意見を求めようと考え、昭和三七年一月二〇日控訴人に対し、有限会社法一九条二項に基き、書面をもつて、被控訴人の持分一一〇口を右五名に対し代金合計一一万円で譲渡したい旨の通知をした。控訴人は次のような事情で右一一〇口の持分は被控訴人から柴田に移転したとしてその社員名簿にその旨記載した。すなわち、同法一九条三項に基き、同月二七日開催の臨時社員総会で右持分一一〇口の譲受人を柴田治に指定する旨の決議がなされ柴田から被控訴人に対し適法な譲受の申出があつたので、柴田が同法所定の申出期間の経過とともに譲受人となり、控訴人は、かねて被控訴人に対し五三万二八八〇円の貸金債権を有していたが、柴田から右持分譲受代金一一万円を預り、被控訴人に対し右譲受代金債務を負担するに至つたので、同年二月五日被控訴人に対し、前記貸金債権五三万二八八〇円を自働債権とし、持分一一〇口の譲受代金債務一一万円を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をし、それはその頃被控訴人に到達したので被控訴人から柴田治へ一一〇口の持分が移転した。控訴人は右のような前提に基いてその社員名簿にその旨記載した。

以上の事実が認められる。

しかしながら、控訴人が柴田から、同人の被控訴人へ支払うべき持分譲受代金を預つたからといつて、被控訴人が控訴人に対し右持分譲渡代金債権を取得するいわれはなく、控訴人は被相殺者である被控訴人が第三者である柴田に対して有する代金債権を受働債権として相殺することは許されない。したがつて、仮に有限会社法一九条三項に基く前記社員総会の決議が有効になされたとしても、右持分譲受代金の支払方法としてなされた相殺が無効である以上、被控訴人から柴田への持分の移転は代金の支払いがないためその効力を生ぜず、被控訴人および柴田の出資口数は従前どおり前者が一四二口、後者が六八口ということになる。

ところで控訴人の出資総口数が三〇〇口であることは当事者間に争いがないところ、〈証拠〉および弁論の全趣旨によれば控訴人の社員総会における決議は代理人によつて行使される議決権を含み出席社員の議決権の過半数をもつて決する旨定款に定められており、昭和三九年三月一三日午後八時の臨時社員総会において行使された議決権の数は二七〇口であつたが、本件決議事項につき被控訴人は賛成しなかつたことが認められるから、右決議は成立に至らなかつたものというべきである。ところが、右決議は議決権の数の算定の誤りによつて成立したものとされているのであるから取消を免れない。

したがつて右社員総会決議の取消を求める被控訴人の請求は理由がある。

二原判決添付別紙二、三の各決議の無効確認ないし取消を求める請求について。(三の決議無効確認請求がその取消請求を含むものと解することは前述のとおりである。)

前記社員総会決議の無効を前提とする右二、三の各決議の無効確認ないし取消請求は、すでに述べたとおり右社員総会決議を無効ということができないのであるから失当である。

つぎに前記決議取消の効果として右二、三の決議の無効確認ないし取消を求める請求について考えるに、法は、社員総会決議の場合と異り、取締役会決議の効力の否認方法につき、もともと決議の無効原因となるべき決議に関する瑕疵のうちその成立過程についての瑕疵を取りあげ法的安定の見地からこれを決議取消原因として異別に扱う立前をとつておらず、したがつて訴において右決議の瑕疵をとらえてその効力を争う場合には決議不存在確認ないし無効確認の訴によるべきものであり、取締役会決議取消なる訴訟型態は認められていないから、右請求のうち前記二の取締役会決議取消を求める部分は失当である。

右請求のうちその余の部分について判断するに、社員総会決講取消の判決があつたときは、一般には一応有効であつた決議が遡つて無効となると解されているが、右決議の対象たる事項がそれ自体完了的意味を有するものであるときは別として、右決議を前提として幾多の社団的或いは取引的行為が進展する場合、たとえば役員の選任決議等にあつてその取消に遡及効を認めるときは、外部的には決議を信頼した第三者の利益を害し、内部的には決議を前提として積み重ねられた法律関係が一瞬にして崩壊のうきめを見ることとなり、会社の法的生活秩序の安定は到底望みうべくもないこととなるので、この場合は会社関係の法的安定の見地から取消の遡及効を否定するのを相当と解する。そうであれば取締役解任ならびに選任および監査役選任を決議事項とする右社員総会決議の取消はその遡及効を否定すべきであるから、これを肯定すべきことを前提として右二の決議の無効確認および三の決議の無効確認ないしは取消を求める被控訴人の右請求は失当でありこれを棄却すべきである。

三結語

したがつて本件控訴、附帯控訴およびこれに基き原判決添付別紙二記載の取締役会決議の取消を求める附帯控訴人の請求はいずれもこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九五条を適用して主文のとおり判決する。(林歓一 中原恒雄 西内英二)

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